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奈良地方裁判所 昭和24年(行)8号 判決

原告 冬木甚太郎

被告 朝和村農地委員会

被告補助参加人 奈良県農地委員会

一、主  文

原告の被告朝和村農地委員会が別紙目録記載宅地につき定めた買収計画及びこれに基く政府の買収取消を求める訴並びに右政府の買収及び買収令書発行の各処分が無効であることの確認を求める訴を却下する。原告の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用及び参加によつて生じた費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告朝和村農地委員会が別紙目録記載の宅地につき定めた買収計画並びにこれに基く政府の買収を取消す。被告農地委員会は前記政府の買収の無効であること並びに前記買収計画及びこれに関する公告、承認、買収令書発行の各処分がいづれも無効であることを確認せねばならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め其の請求の原因として、被告朝和村農地委員会は昭和二十三年六月十一日原告の所有に係る別紙目録記載の宅地につき自作農創設特別措置法(以下自農法と略称する)第十五条に依り買収計画を決定し、其の翌十二日公告縦覧に供し参加人農地委員会が同年九月四日承認した。原告は右買収計画の公告を知つて被告農地委員会に対し買受人仲井カジ同今川清夫の買収申請が不当であることを難詰したところ被告農地委員会が原告の不服を正当と認めたから、自発的に買収計画を取止めたものと考えていたのに原告不知の間に承認手続が採られ奈良県知事が右買収計画に基いて買収令書を発行したことを其の交付に代わる公告が昭和二十四年六月二日なされて始めて知つた次第である。しかしながら本件買収計画及びこれに基く政府の買収はこれを組成する右買収計画、公告、承認、買収令書発行なる各行政処分に左記実体上及び形式上の違法、瑕疵が存するから取消さるべきであると同時に右政府の買収右買収計画及び右買収計画に関する公告、承認、買収令書発行なる買収手続上の各行政処分を悉く無効ならしめるものである。先ず手続上の瑕疵として

(一)  本件買収計画は(イ)被告農地委員会作成名義の買収計画書なる文書を以て表示せられるも被告農地委員会に備付けある議事録に徴すれば決議の内容と右文書の記載とが一致しない。且つ決議を必要とする買収計画の法定事項の全部が文書に表明されていない。要するに右文書は法定の内容を具備する適式の買収計画書でない。(ロ)買収計画書は地区農地委員会なる合議体の行政行為的意思表示を表明する文書であるから当該委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載並びに其の決議に加つた各委員の署名捺印あることを有効条件とするのに本件買収計画は其の要件を欠いている。

(二)  (イ)地区農地委員会のする買収計画の公告は単独行為たる行政庁の準法律行為であつて其の告知行為によつて買収計画を対外的に効力を発生させるのであるのに本件公告はいづれも被告農地委員会の決議に基いてなされていない。(ロ)又被告農地委員会自身の処分でなく委員会会長が其の名義を以てする単独行為で専断無権限の行為である。(ハ)公告は買収計画そのものを告知することを要するのに現実になされた本件公告は単に縦覧期間と買収計画書所在場所を表示するに止り自農法第十五条第二項第六号の要件を欠き買収手続開始の公法関係を発生させるに由がない。

(三)  参加人農地委員会が本件買収計画につき法定の承認決議をした外形存するも右承認は(イ)被告農地委員会の適式な申請に基かない違法がある。即ち被告農地委員会が参加農地委員会の承認を求めるにつき宅地買収であるのに農業用施設買収計画に対する承認手続をしている。(ロ)参加人農地委員会の承認書が同委員会に依り作成せられていない。且つ被告農地委員会に対し告知がなされていないから承認なる行政処分は其の効力発生条件を具備しない。

(四)  都道府県知事の買収令書発行なる行政処分は承認により確定した買収令書即ち狹義の政府の買収を執行に移す行為であつて、買収令書が所有者に適法に交付せられ又は公告せられて始めて政府の買収が完了し確定した買収を被買収者に告知すると共に対価を提供する行為であるが本件買収令書は誤記誤算があるから右処分を違法ならしめること勿論である。

以上本件宅地買収手続としてなされた各行政処分の形式的成立要件の各瑕疵は、参加人農地委員会の承認に依つて確定した本件買収計画を奈良県知事の買収令書発行なる行政処分により執行に移すまでの各処分を包括した広義の政府買収をも違法ならしめると共に右政府の買収を始め各行政庁の処分の内容に共通する左記実体上の瑕疵がある。

(一)  本件宅地は農業経営に必須な施設でない。宅地の主要部分は住宅の敷地であつて若干の空地を存し此の部分が農業経営に利用されているけれども宅地全体より観れば開放農地の利用上必要な施設とは言い得ないから本件宅地を買収するのは違法である。

(二)  本件宅地買収は公簿上一筆の土地の一部につき買収を定めているが宅地の一部の地域は所有権の客体たり得ない。従つて一筆の土地の一区域の坪数のみを表示して定めた本件買収計画は違法である。

(三)  本件各宅地の買収申請人はいづれも各宅地の賃借人でない。仮に賃借権を有するとしても自農法による農地の売渡を受けた自作農でない。買収申請人仲井カジは七十二歳の老齢で僅かに一反六畝歩耕作するに過ぎない。尤も本件買収計画後昭和二十三年十一月政府より旧軍用地を若干買受けたけれども、買収申請の適格に斟酌さるべきでない。申請人今川清夫は未成年者で、姉と二人で反別二反足らず耕作するけれども稼働能力がなく、他村居住の親族に右農地の耕作を依頼している状態であつていずれも純農家として将来農業に精進する見込ある自作農とは言い得ない。家庭菜園を耕すに等しい零細農家、所謂飯米百姓であるから宅地買収を申請する適格を欠きこれを是認した本件買収は違法である。

(四)  本件各宅地は朝和村における開放農地の区域外に所在し共の環境より観れば農業利用地たる外観を呈するも、農地改革の一環としてこれを買収することは国土経営の見地よりして明かに不適法である。

(五)  本件宅地買収の対価は時価を参酌して定むることを要するのに財産税の物納評価基準により算定した結果坪当り金二百円以上の時価に比べ不当に低額である。坪当り金二十円内外の額を定めたのは違法である。

以上形式並びに内容上の違法、瑕疵は本件買収計画及びこれに基く政府の買収を取消すべき原因であると共に、本件各宅地買収計画に基く政府の買収、買収計画及びこれに関する公告、承認、買収令書発行の各処分を悉く無効ならしめる性質のものであるから、本訴において前記取消と無効確認を求めると陳述し被告の本案前の抗弁に対し昭和二十二年法律第七十五号民事訴訟法の応急措置に関する法律第八条の出訴期間に関する原則規定に対する特則として同年十二月自農法改正法律第二百四十一号第四十七条の二が定められたところ其の後昭和二十三年七月十五日行政事件訴訟特例法施行せられて以後は同法第五条の原則規定が適用されることとなり自農法第四十七条の二の規定も亦応急措置法と共に失効した。即ち特例法第五条第五項に所謂他の法律とは、同法施行後に制定された法律を指称するのである。従つて原告は奈良県知事が本件宅地買収計画に基いて買収令書を発行したことを其の交付に代わるべき公告がなされた昭和二十四年六月二日知つたから同日より起算して六ケ月内に右買収計画に基く政府の買収取消の訴を提起したのは適法であると共に本来地区農地委員会の樹立する買収計画は都道府県農地委員会の承認により確定し政府の買収行為として執行力を生ずるものであつて違法な買収計画によつて権利を侵害される者は右承認なる処分のあつたことを知つた日から起算して六ケ月内に買収計画の取消変更を訴求できるのである。自農法第十五条第二項第七号の規定はいわば未完成の買収計画という行政処分に対し予め不服申立権を附与する特則であつて完成した買収計画に対する不服申立を制限する趣旨でない。従つて前同様右公告の日即ち承認のあつたことを原告が知つた昭和二十四年六月二日より起算して六ケ月内に提起した本件買収計画取消の訴も亦出訴期間内になされた適法な訴であること勿論であると附演し立証として甲第一号乃至第四号証、同第五号証の一乃至六、同第六、七号証の各一、二、同第八、九号証を提出し、証人松田岩松、同西岡正太郎、同島岡清司、同冬木治右衛門(第一、二回)同福岡藤市郎、同樫根佐七の尋問を求め乙号各証の成立を認め同第一号証、同第三号証の一、二を利益に援用すると述べた。

被告農地委員会代表者及び参加人農地委員会指定代理人は、本案前の抗弁として原告訴を却下する旨の判決を求め其の理由として被告農地委員会が原告に対し本件宅地買収計画を不当と認めて取消すことを約したことがない。被告農地委員会は自農法により宅地買収計画を決定するのに宅地所有者の承諾を必要としないけれども村落の融和を考慮し、大字岸田の農地補助員西岡正太郎をして予め原告の同意を求めさせたのに、原告が応じないので右法律により昭和二十三年六月六日本件宅地買収計画を決定し同月十一日公告し翌十二日より同月二十二日まで縦覧に供したところ原告が右期間に異議を申立てなかつたから異議、訴願の手続を経ないで提起した原告の訴は行政事件訴訟特例法第二条に違反し不適法である。亦奈良県知事が本件宅地につき、同年十月十日附を以て発行した買収令書を被告農地委員会の手を経て昭和二十四年一月十日原告に対し其の受領方を督促したのに原告が受領を拒絶したので同年六月二日交付に代わるべき公告をした。従つて原告が知事の買収処分のあつたことを知つた同年一月十日より起算するも、又右公告の日より起算も二ケ月以内に訴を提起すべきであるのに、原告が右出訴期間を徒過したから政府の買収の取消を求める原告の訴も亦不適法であると述べ本案につき原告の請求を棄却する旨の判決を求め答弁として被告農地委員会が原告所有の本件宅地につき昭和二十三年六月六日買収計画を決定し同月十一日公告し翌十二日より同月二十二日まで縦覧に供し参加人農地委員会が同年九月四日承認し奈良県知事が同年十月二日付を以て右買収計画に基いて買収令書を発行し前記の通り原告において知事の買収令書の交付を受けることを拒んだので昭和二十四年六月二日右令書の交付に代わる公告をしたのであるが本件宅地買収につき被告農地委員会を始め参加農地委員会、奈良県知事のした原告主張の各行政処分につき、原告主張のような手続上の違法瑕疵がない。尤も参加人農地委員会がした承認の処分につき委員会の決議を表示する文書に各農地委員の署名押印がなく且つこれを被告農地委員会に告知する手続を採らなかつたことは事実であるもこれが為に承認行為を違法ならしめるものでない。本件宅地買収手続の基礎たる買収計画の内容につき原告主張のような違法あることを否認する。即ち

(一)  本件各宅地の大部分が敷地であるにしても同地上建物が買収申請人の農業経営に利用されている限り宅地買収は適正である。

(二)  本件各宅地の買収申請人はいづれも各宅地につき賃借権を有し、且政府より農地の売渡を受けた適格者である。申請人仲井カジは反別五反余歩の農地を耕作する専業農家である。申請人今川清夫は耕作反別二反余歩に過ぎないけれども父母相次ぎ死亡し十七歳の姉と二人で農耕に生活を維持するも清夫本人が聾で農業以外の職業に就き得ないから将来も農業に精進せねばならない事情に在るものである。従つて同人等宅地買収の申請を相当と認めて買収計画を決定したことは何等の違法がない。

(三)  本件各宅地は其の地位環境よりしてこれを政府が自作農の経済的地位の安定に資するため買収するも国土経営の国家的利益を損傷するものではない。

(四)  本件各宅地の買収対価として被告農地委員会は中央農地委員会議の定めるところに従い各宅地の賃貸価格に財産税法に依り地方国税局長の定めた六十五の倍率を乗じた価格を算定したから適正な対価であるばかりでなく、対価の不当は国を相手として増額の訴を提起すべきであり買収処分の違法原因とすることが出来ない。

以上要するに本件宅地買収計画並びにこれに基く買収手続たる原告主張の各処分はいづれも適法であつて取消原因たる瑕疵が存しない。況んや法律上当然無効とすべき何等の違法がないから原告の本訴請求は失当であると陳述した。(証拠省略)

三、理  由

被告農地委員会が昭和二十四年法律第二百十五号に依る改正前の自農法(以下同じ)第十五条第一項第二号に依り、原告所有に係る別紙目録記載の宅地につき昭和二十三年六月六日買収計画を決定し同月十一日公告し翌十二日より同月二十二日まで縦覧に供し参加人農地委員会が同年九月四日承認し奈良県知事が同年十月二日附を以て買収令書を発行し被告農地委員会を経て昭和二十四年一月末頃原告に対し右買収令書の交付を受くべきことを督促したところ原告が受領を拒絶したため同年六月二日右買収令書を原告に交付するに代わる公告をしたことが成立に争がない甲第一、二号証、同第三号証同第八号証及び証人福岡藤市郎の第一回証言に依り認めることができ原告が昭和二十四年八月二十九日本訴を提起したことは記録上明かである。被告農地委員会が決定した本件宅地買収計画の違法を攻撃して、右宅地所有者たる原告が右買収計画の取消を求める訴を提起するには訴願前置主議を規定する行政事件訴訟特例法第二条に依り自農法第十五条第二項第七条に従い異議、訴願の不服申立手続を経なければならないところ原告が右異議、訴願の手続を経なかつたことは原告の認めるところであるから本件買収計画取消を求める部分は不適法であることが明かである。原告は本件買収計画の縦覧期間中被告農地委員会が原告に対し、右買収計画の誤まれることを是認したため自発的に取消すものと信じ訴願手続を採らなかつたことにつき正当な事由ある旨主張するけれども原告提出援用の全証拠に依るも原告の右主張事実を肯認することができないから原告の右主張を採用しない。原告は本件宅地買収計画に基く政府の買収の取消を求めるから按ずるに、原告のいう政府の買収とは市町村農地委員会のする買収計画に基いて都道府県知事が買収令書を所有者に交付するまでの買収手続として各行政庁のする行政処分を包括指称するものであることは原告の主張するところに依り明かであつて自農法が政府の行う買収を法定の行政機関に委譲し政府自から行政庁の行う処分の取消変更をする権限が認められていないのに、上級行政庁たる都道府県知事のする買収処分の外に政府の買収なる具体的行政行為の存立を認むべきか否かの判断は暫く措くとしても、所謂抗告訴訟である限り前記特例法第三条に依り処分庁として上級行政庁たる都道府県知事を被告として出訴すべきところ被告農地委員会を被告として右買収計画に基く政府の買収の取消を求める原告の右訴は当事者適格を欠くものとして不適法といわねばならない。次に原告は本件宅地買収計画に基く政府の買収及び右買収計画に関する買収令書発行の処分がいづれも無効であるとの確認を求めるから按ずるに、国の行政庁のした行政処分の無効確認を求める訴は公法上の権利関係に関する訴訟として民事訴訟法に従い買収の主体たる国を被告として出訴できると共に抗告訴訟に関する前記特例法第三条を類推適用して処分庁を被告として訴を提起すべきところ右政府の買収無効確認の訴は上級行政庁たる知事を被告とすべきことは原告の主張するところに依り明かであり又知事のする買収令書発行なる行為は買収令書を被買収者に交付することにより成立する知事の買収処分の前提要件たる手続上の行為たるに止りそれ自身利害関係人を拘束する独立の処分でないから、結局知事の買収処分の無効確認を求めるものと解すべく従つて本件において原告は前者と同様奈良県知事を被告として提起すべきであるのに、被告農地委員会を相手方とする右各訴も亦被告適格を欠く不適法として却下を免れない。次に原告は本件買収計画に関する公告、承認がいづれも無効であることの確認を求めるけれども公告は単に市町村農地委員会の決定する買収計画の告知手続に過ぎない。又都道府県農地委員会の行う買収計画の承認は上級行政庁が下級行政庁に対し有する審査監督権の行使たる性格を有し利害関係人を相手とする行政処分でない。利害関係人は都道府県知事の買収処分を攻撃する原因として承認の違法、瑕疵を主張すれば足りるのである。従つて原告が判決を以て本件公告並びに承認の無効であることの確認を求める法律上の利益を有しないからいずれも棄却さるべきである。よつて進んで原告の本件買収計画の無効確認を求める請求の当否につき按ずるに

(一)  原告は本件各宅地は其の大半部分が住宅の敷地であつて直接農業の経営に利用されていないからこれに対する買収が違法であると主張するけれども証人松田岩松の第二回証言に依れば右各宅地上の建物は買収申請人仲井カジ、今川清夫の住家であると共に農機具、農作物を収納することに使用されていることを認めることができるから買収の客体たり得ることは明かで原告の右主張は理由がない。

(二)  原告は本件宅地買収は公簿上一筆の土地の一部につき定められているが、一筆の土地の一部は所有権の客体たり得ない。従つて一筆の土地の一区域の坪数のみを表示した買収計画は違法であると主張するけれども本件各宅地の買収部分が公簿上一筆の土地の一部であることを認むべき原告の立証がないから右主張を採用することができない。

(三)  原告は本件宅地の買収申請人等は原告に対抗できる賃借権を有しないと主張するけれどもこれを認むべき証拠がなく却て証人松田岩松の第二回証言に依れば買収申請人仲井カジ、今川清夫がいづれも賃借権を有することが認定できるから原告の右主張は理由がない。次に原告は右買収申請人等はいづれも零細農地を耕作する飯米農家で将来共農業に精進する見込ないものであるから其の買収申請を容れて決定した本件買収計画は違法であると主張するけれども斯ような事項は少くとも前記改正前の自農法第十五条第一項の規定の解釈上被告農地委員会が本件宅地買収計画を定めるにつき法律上認められた裁量権の範囲に属し相当性という法律上の覊束的制限を逸脱した違法があるにしても買収計画をして当然無効ならしめる瑕疵とは認め難いから原告の主張は採用しない。更に原告は本件宅地買収の申請人等は自農法による農地の売渡を受けた自作農でないと主張するから按ずるに証人福岡藤市郎の第二回証言に依れば、買収申請人今川清夫は其の耕作反別二反八畝二十五歩の政府が買収した小作地の売渡を受けた自作農であることが認定できるから同人の申請を容れた宅地買収については原告の右主張は当らない。次に成立に争がない甲第六号証の一、同第七号証の一、証人仲井光雄、同吉川茂の各証言、証人福岡藤市郎の第二回証言に依れば、仲井カジの亡夫重作(昭和十九年二月五日死亡)が戦時中五反三畝歩の田畑を耕作していたが、内小作地四筆田三反七畝五歩が政府に買取られ海軍飛行場に使用せられたところ終戦後参加人農地委員会が自農法第四十一条第三号に依り自作農地に開発すべき土地と決定し昭和二十二年十月二十一日奈良県知事の認可を得て大蔵大臣より農林大臣に管理替えせられ旧小作人仲井カジの買受申込に依り参加農地委員会が昭和二十三年十一月一日右四筆の土地につき売渡計画を樹て同年十二月一日知事がこれを認可し昭和二十四年一月四日売渡通知書を交付したこと及び仲井カジが本件宅地買収を申請した昭和二十三年六月頃には右四筆三反七畝三歩の部分は既に農地に復旧されてこれを耕作していたので被告農地委員会が仲井カジを自農法第十六条第一項の命令で定める国有農地の売渡を受ける自作農に準じて取扱い本件買収計画を決定したことが認定できる。自農法第十五条第一項は政府が買収する客体を明示すると共に、(イ)政府が同法第三条に依り買収する小作地又は小作地類似農地、(ロ)同法第十六条第一項の命令で定める農地即ち同法施行令第十四条に定める市町村農地委員会が自作農創設に供することを相当と認めて決定した政府所有の農地及び政府買収の小作地の交換地につき、自作農となるべき者に限つて買収申請ができる旨規定して政府の買収権の範囲を明定しているから、右制限条件を超えて行政庁が買収の行政処分をすることは私有財産権の強制収用を定める公法法規の性質上許されないところであつて、被告農地委員会が自農法第四十一条第一項第三号に定める政府所有の土地につき、自作農となるべき仲井カジを前記(ロ)の政府所有農地につき自作農となるべき者に準じて扱い、同人の宅地買収申請を容れて本件買収計画を定めたのは法律の適用を誤つた違法の処分であること勿論である。しかしながら自農法第十七条第一項第七号に前記(ロ)の政府所有農地についても小作関係ない自作農に対して例外的に買受資格を認めているし訴外仲井カジが軍用地としての政府買上がなければ小作農として小作地開放を受け得られた貧農であることが前段認定の各証拠に依り認めることができ此の点から観察して小作農保護を主眼とする自農法の運用上斯のような自作農は、附随買収の申請権を賦与すべき十分の実質的理由あることが窺われる。従つて被告農地委員会が法律を不当に拡張解釈して決定した本件買収計画に重大瑕疵あるけれど何人も其の拡張解釈に疑問を挾むことができないという程度の明白な違法とはいい難いから右瑕疵は買収計画を取消すべき瑕疵ではあるが右買収計画をして法律上当然無効ならしめるものでないと解するのが妥当である。従つて原告の右主張も亦採用しない。

(四)  原告は本件宅地は其の環境上買収することは国土経営の施策上明かに不適法であると主張するけれども斯ような事実は本件買収計画を法律上無効ならしめるものではない。

(五)  原告は本件宅地買収の対価は坪当り金二百円以上であるのに、財産税の物納評価基準によつて算定した坪当り金二十円内外の対価を定めたのは違法であると主張するけれども、被告農地委員会が主観的に擅恣な対価を計上したのでなく兎に角一定の基準に依る対価を定めたことが原告主張自体に依り明かである以上具体的に対価が不当であるということは買収計画自体の違法原因とはならないものと解すべきであるから原告の右主張も採用し難い。

次に原告は本件宅地買収計画及び公告の形式的成立要件につき買収計画なる行政処分を無効ならしめる瑕疵ある旨主張するけれども原告主張の手続上の瑕疵は未だ本件買収計画という行政処分を法律上無効ならしめるものでないと解するから、果して原告主張のような瑕疵が存在するか否かの判断を待つまでもなく原告の此の点に関する主張は採用できない。してみれば原告の本件宅地買収計画の無効であることの確認を求める訴も亦理由がない。よつて民事訴訟法第八十九条第九十四条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一 坂口公男 中村一作)

(目録省略)

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